【展開】
上段 10 of Cups / Prince of Swords / 4 of Cups
中段 The Hermit / 7 of Wands / The Lovers
下段 7 of Swords / 9 of Wands / The Empress
【概観】
中心には7 of Wands. タイトルはValor、すなわち勇気、豪胆。獅子座に火星が入っている状態を表す。Wandは人間の心的機能のうち意志、欲望を表し、7は数秘術から金星、そして高い知性を表す。
中心に現れた7 of Wandsからは、前線から一歩退いた時点で新たに体勢を整え、士気を保ち前向きに、勇猛果敢に事態に取り組む態度が感じられる。後退戦であることは重々承知の上で、なお士気を保ち、気丈に、凛としていようとする、心的エネルギーのほとばしり。
これは闘病生活の当事者であるお母様の心的風景なのか、相談者のものなのか、あるいはそのどちらをも含むものなのかは、他のカードとの兼ね合いで解釈していけるだろう。
その左にはThe Hermit, 「隠者」、闇の中で蛇の巻きつく卵を凝視し、こちらに背中を向けた老人が描かれている。彼または彼女は、老成の極み、あるいは生命の終わりの段階に到り、恐ることなく冥界を凝視し、沈思する哲学者である。足元には冥府の番犬ケルベロス、隠者の手には光を放つランプが描かれている。
右にはThe Lovers、婚礼の儀式の風景が描かれている。中段3枚の並びは哲学的、神秘的な芳香に満ちている。消えゆく生命の光をなお力強く保ち、闇を凝視する人にとって、死はもはや恐るものではなく、かつてなく深い神秘と感嘆に満ちた道行きである。その道行きにあって浮上するテーマのひとつに「出会いと別れ」がある。
婚礼の儀とは、同時にかつての自分が死に、新しい自分に生まれ変わる、死と再生の儀式でもある。なにかと結ばれることは同時に、ほかのなにかを手放すことだ。伝統的にこの「恋人」のカードは、結ぼれというよりも「選択」つまりなにを手放すか、なにに別れを告げるか、を強調する。
私はここに、相談者とお母様の関係性をみる。消えゆく生命の炎の傍で、相談者はあらためて母と出会い、対面している。それは儀礼的な手続きを経て、なされるべき返礼の応酬を経て、闇を凝視しそこに歩を進める人間の試練が、共有されている。それは心細くもありながら尊厳に満ちた、武人の相互信頼だ。
中央下段には9 of Wands, タイトルはStrength、強さ。このWandの札は、中央の7よりもさらに後退した、かぼそい月の領域に瞬く意志と光である。太陽と月の緊張に引き裂かれた、あやうい「強さ」が描かれている。下段は無意識、潜在的状況の領域であり、公の儀礼の場では気丈な相互信頼の誓約がなされていても、もちろん人間の心の内には弱さと戸惑いがある。両隣には7 of Swords「無益」と「女帝 The Empress」が並ぶ。
7 of Swordsは堂々巡りする思考、「女帝」は伝統的に「母性」を表す。自らが母であること、娘として母に対峙すること、そういった心的エネルギーの場が立ち上がっているが、それは思考の堂々巡りに撹乱される。上段に目を向ければ、中央にはPrince of Swords。両隣には10と4のCupsが並ぶ。Cupsは人間の心的機能のうち「感情」を表す。Swordsは「思考」である。中央上段に突如現れたこの人物は、誰であろうか? 彼が戦車に乗っていることから、私は車椅子のお母様を連想する。車椅子は今や戦車であり、思考の鋭い剣を振り捌く尊厳に満ちた王子は、喜びに満ちている。
【分析】
縦軸中心は、多少の心細さをはらみつつも、気丈さを保ち、苦境にあって士気を保ち、車椅子にあって戦車を操るが如く尊厳に満ちた人物を描き出している。彼あるいは彼女には、自らの戦車を意のままに制御し、思う存分に戦うことこそが重要だ。自らの士気が自らの身体を焼き尽くしてしまうなら、それが本望である。
縦軸左には、思考の堂々巡りが「沈黙」を経て、泡立つ喜悦の噴水に変容する様が描かれている。縦軸右は、母として必要な儀礼を経て、穏やかな安らぎに至る道が描かれている。
これらは全て、車椅子にありいま消え行こうとしている「母」に必要な道行きであろう。そのことに、おそらくは母自身も、少なくとも母をまなざす相談者は、重々に理解し、尊重するべきだ。それは孤独で、尊厳に満ちた道行きである。
中央の「勇気」を軸に、二つの対角線が交差している。その上段の終端は、ともにCupsの噴水、情緒として共有される喜びと安らぎである。対角線の一本の終端には「母」が、もう一本の終端には「無益な思考」がある。思考の堂々巡りに陥ってるのが母であれ娘であれ、また「母」がその本人かあるいは娘にとっての対象なのかはともかく、いまその両者はあるべき儀礼の場(The Lovers)において、対面している。儀礼場は美と尊厳へ信頼、すなわち光に満ちている。ここに必要なのは、最も美しいそのScriptを、予定どうりに遂行する、相互信頼と別れの礼節であろう。
【総評】
全体に「意志」そして「思考」と、男性的なエネルギーが強くうずまく場であるが、この物語の帰結としては「感情」が予感されている。儀礼の場を最善の雰囲気に保つには、意志と思考が求められるのであるが、その儀礼が描き出すドラマ、受け取るべき恍惚は「感情」である。登場人物がまったく情緒など気にも留めない人物であろうと、やはり彼ないし彼女が描き出すドラマは「感情」のカタルシスなのだ。優れた役者は、自分がなにを演じているのかを、よく知っている。
誰かが孤独に闇を見つめている時、そこには哲学的な思索と、内的な旅があり、誰にもそれを邪魔する権利はない。彼ないし彼女がふと振り返った時に、明るく暖かい晩餐を用意しておけばいいだけの話だ。
母と娘の儀礼とはなにか。この儀礼において、いかなる返礼の応酬が「必要」なのか。このことは、いましばしお互いの問いとして模索されるだろう。かならずしも、人生の先達である母が全てを了承しているわけでもない。思考が喜びに、儀礼が真実に変容する場では、全てはSense of Wonderに包まれている。
【おすすめのおまじない】
車椅子を戦車にする。形式張った挨拶の応酬。演劇ごっこ。
泣きながら眠りに落ちる。唐辛子。夢日記。