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2000年からモテる方法

文芸社『A』 Vol 4 [1999]



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第3回 「繋げてみましょう」

 

 

「おはよう!」

 

 夢の世界、星の世界への参入に伴う強烈な覚醒感、超次元的既視感について、言語化することは難しい。たとえばそれを「覚醒感」や「既視感」と呼んだところで、その体験は覚醒を超えた覚醒、既視を超えた既視なのであり、言語、あるいは脳の言語中枢の外側で生起する事件なのだ。

 秘教的修行、サイケデリック物質の摂取、生死を彷徨う致命的状況、そして精神的、霊的高揚の極まる瞬間に開かれるその回路 - 言語によるブロックが解除された脳的/霊的バイパス - に流れ込む情報は、本来我々が日常生活において「気」「兆し」といった感覚で接しているものであり、また我々の無意識に働きかけて我々の行動を規定しているものである。

 斯様に我々を包み込み且つ隠されている情報野(伝統に従ってアストラル界、およびそれ以上の階層と呼ぶ事にする)を、我々は顕在意識上で分析処理することができない。言語を絶するという表現があるが、この情報野において言語は低次プロトコルとして扱われ、上位互換の関係にある。即ち言語情報野においての出来事をアストラル的に参照することは可能だが、アストラル界の情報を言語情報野にフィードバックするには相応のコンバート作業、パッチ作業が必要なのである。

 アストラルな覚醒感覚の特徴として、高次の自己、「全てを知っている自分」との一時的合一があげられる。このような自己を「憶いだす」という表現がまさにあてはまると同時に、言語情報野の外、この星の外、他の上位次元でのこの存在様式を、我々は通常意識、言語情報野に持ち帰ることができない。それは「秘密の自己」であり、変性意識において言語認識の「プロテクト」を解除した状態においてのみ参照される情報、「記憶の外の記憶」なのだ。

 言語はまさに網のようにこの上位階層、あるいは深部階層の外郭を包み込み、情報の入出力レンジをあるレベルに限定している。自己認識における上位階層について文章を綴ることは、それ自体の不可能性、自己言及性を孕んでいる。コンバートされ、劣化、あるいは変化し、ノイズ成分を含んだ言語認識情報を、それでも我々は「認識」の主たる手段とせざるを得ない。

 ウィリアム・S・バロウズの「言語ウィルス」という些か脅迫的な概念は、言語が地球外から訪れ人類に寄生したウィルスであり、このウィルスを地球にもたらした悪意ある存在によって人類の活動が悉くコントロールされている、というものであった。「病としての言語」という概念は東洋の異端的伝統の一部にもみられ、また悪意ある神による惑星管理という概念はいわずもがなグノーシス的世界観の基本前提である。このコントロールから逃れるために、バロウズは言語を「切り刻み」、意味生成システムに意図的なバグを混入させる攻撃的な言語クラックを提唱し、実践した。グノーシスの教師たちは悪意ある神々ダイモーンの隙を突いて「真の認識」へと至るために自虐的(しかしながらここで虐待される自己とはダイモーンの管理下にある偽りの自己である)禁欲的生活、あるいはその逆の熱狂的放蕩三昧に没頭することで、上位階層へのハッキングを試みた。

 2000年からまさにモテようとしている我々は、このような脅迫的、攻撃的な理論展開は慎重に回避しなければならない。モテるのは常に紳士淑女であり、目的の切実さと手法のスマートさは常に美しい比例を保つべきなのである。私が敬愛してやまない神秘思想家/教育者ルドルフ・シュタイナーは、人類に干渉する2種類の「悪」をアーリマン、ルシファーという霊的存在によるものとし、それぞれ言語的知性と感覚的欲求に働きかける2方向の「悪」の干渉が、人類の進化に加担してきたと説いた。しかしながら彼はアーリマン/ルシファーからの離脱ではなく、両者のバランスにこそ「善」即ちキリスト存在を見出したのである。

 「言語ウィルス」からのルシファー的強行離脱は、道を誤ればコスモスの全否定、自己存在を含む神的秩序への不毛な攻撃となる。

 逆に言語認識をコスモスを計る絶対尺度と妄信しアーリマンの受肉に加担すれば、コスモスから生命力溢れるケイオスは駆逐され、世界は重く乾いて死に絶える。

 さて、ならば我々のモテへのバランスポイントは如何なる座標に求めることができるだろうか。熟考。

 上位階層への接続とは、分裂し相対する2を統合する3を見出すことにより、陰陽から道(タオ)へ、父と子と精霊の三位一体へ、全的1(Oneness)としての自己/宇宙を「憶いだす」その径であるべきだ。アストラルな、星の世界の響きによって我々は相互に接続され、繋がっている。誰もが一部であり、全体である。あなたは孤独ではない。わたしたちはこの星において、この宇宙において1であり、互いに分かちあい響きあうモナド(単子)なのだ。そしてその響きは、ラブソング以外の何物であり得ようか。

 断言するが、あなたはモテる。いや、あらゆる時間と場所において、本質的にあなたはモテモテなのだ。わたしたちがしなければならないことは、その秘密を、遠い星の光の下で交わしたその約束を、憶いだすだけなのだ。わたしたちは永劫の時を超えて、この宇宙で再び出会う。どんな時でもその約束を忘れなければ、それで大丈夫。It’s OKだ。わたしたちは、愛しあい、繋がっている。


 あなたが、この惑星が、そのWeb of Onenessに参入した時、そこから天を見上げれば、さらなる上位階層が広がっているだろう。どこか遠くで、同じ秘密をわかちあった兄弟姉妹、恋人たちが、星の世界からラブコールを送り続けているのを、あなたは感知するだろう。その時、あなたは、わたしたちは、さらなるモテへと飛翔する。

 さて、そろそろこの連載も佳境に入ってきた今この瞬間、キューブリック死去の報せが届いた。2001年のモテモテエイジに贈られた彼のラブコールは、代々木の森から外宇宙へと貫かれるささやかな響きとなって我々の魂を星の彼方まで誘うだろう。遠い約束を胸に秘めつつ流星群の空を見上げるわたしたちは、今この瞬間のWILD SIDEを進むことをもはやためらわない。合掌。

 

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