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About Witchcraft, 魔女について

縄文系現代魔女術ワークグループ「ウフィカ」考

[日本語 / English] [2013]

 

 ウフィカは実践魔女術研究家・谷崎榴美を中心に2013年8月に創設された現代魔女術ワークグループである。2013年10月現在10余名の参加者が集い、オンラインで活発に交流している。

http://uphyca.org

 ウフィカの提示する「魔女」潮流のスコープは、フランス-イングランドの伝統魔女宗(Traditional / Hereditary Craft)からクロウリー/ガードナーの手による復興魔女宗(Gardnerian WICCA)、60-70年代のネオペイガン潮流の分岐、ケイオスマジック経由新魔女宗のシュメール/バビロニア的隔世遺伝に亘る広範な系譜を見据え、その衝動と持続を空間的にも時間的にも「いまここ」に繋げるものである。すなわち狭義の「西洋魔女宗」の参照・模倣に留まるものではなく、ある意味では逸脱しつつ、パラダイムシフト的な跳躍によって原初の衝動への回帰と再生を目論むものでさえある。本稿では幾つかのキーワードに沿って、ウフィカの概要を紹介する。

 

ソロ魔女のオンラインワークグループ


 ウフィカは13人一組といった様式を持ついわゆるカヴンではなく、既に何らかの自己参入儀式を経験したソロの魔女たちのオンラインワークグループである。この点の類推にはケイオスマジックムーブメントを牽引した英国グループ、IOTが結社(Order)ではなく組合(Pact)を標榜したこと、同じくポストケイオス的オンラインコミュニティAutonomatrixなどが参照されるだろう。メンバーはノート共有アプリEvernoteにより、それぞれの夢日記や、段階的に提示される課題をはじめ様々なエクセサイズを相互に編集可能なノートとして共有する。ウフィカは構造上、オフラインでのミーティングを「必要としない」グループデザインが企図されている。これは参加者の地域的制限を回避する実利性のみならず、カヴン(的共同体)の電子的な拡張という実験性を徹底する狙いも込められている。


 「電子的に拡張されたカヴン」は、その参照系としてマーシャル・マクルーハンのメディア進化論、テレンス・マッケナのポストモダン・シャーマニズムに加え、伝統的な魔女のトポロジーをも内包する。すなわち、中世ヨーロッパの魔女が使用した「飛行軟膏」、幻覚性植物による変性意識的離脱・飛行体験の焦点としての「ハイ・サバト」である。復興魔女宗の一派Sabbatic Craftにおいて「ハイ・サバト」は、エノク魔術における「アエティール」に相当する魔術的トポスとして提示される。中世ヨーロッパの魔女カヴンでは、メンバーが一同に会するのは1年に1度程度であったという。彼らはカヴンの物語、アストラルイメージを符牒として共有し、それぞれの暮らす場から変性意識下の「飛行」によって集合意識の焦点としての「ハイ・サバト」に赴いたのである。オフラインミーティングを介さず、電子メディア空間での物語(Narrative)の共有と意識の同調、交感を強化することは、ウフィカメンバーに課せられたエクセサイズでもある。

 

縄文の女神信仰と巫女文化


  ウフィカはアイヌ語で「焼き尽くす」を意味する。西洋魔女カヴンが拝する大地母神、有角神に該当するウフィカの神的イメージは、縄文期日本の出土品に透かし見る古代の女神であり、沖縄-台湾-ポリネシア、北海道-ロシアの「ヤポネシア」弧に広がる巫女文化に保存されている「火」のイメージに集約される。ウフィカメンバーはそれぞれが自己参入を果たした魔女でありながら、縄文の女神を祀る「火の巫女」としてのワークに取り組む。ある意味ではウフィカは縄文復興ワークグループであり、現代の実践シャーマニズムであり、ポストモダンの復興拝火宗でもある。


 ウフィカの拝する「火」とは、それ自体最も根源的であり直接に体験されるエネルギーでありながら、古代より綿々と燃え続ける生命-意識、そして2011年の原発事故によって爆散した核エネルギーの重層的メタファーでもある。現時点で唯一使用されているウフィカのグラフィックイメージは、福島原発から外洋に流出する放射性物質の拡散予想図を炎に見立てたものであり、それは極東の竜がのばす火の舌のように見える。中東に保存される古代拝火教、特にイラクのクルド人宗派イエジディ派は、ペルシャ・スーフィズムと堕天使神話を介して西洋秘儀文化と「ツバル・カインの血族」としての古ヨーロッパ魔女宗に接続する。民俗学、比較宗教学、文化人類学の成果を踏まえた緻密なナラティブの構成により、現代日本人の「いまここ」に直接に繋がるスピリチュアル・エクセサイズと共同体のユニバーサルデザイン - Jomonian Witchcraftが目論まれている。



電子的に拡張される口承文化装置


 ウフィカのプラットフォームは先述のEvernoteやSkypeなどのネットツールであるが、要点となるエクセサイズ、課題、段階的イニシエーションは全て語りを録音した音声ファイルとして共有され、テキストデータは最小限に抑えられている。無文字文化であった縄文期日本の霊性に意識を向けるワークと継承の方法論が、発話修練と聴覚体験によって構成されている。ウフィカメンバーは火の巫女としてのワークの過程で、耳を澄ませ、自ら語ることによってのみウフィカの物語(Narrative)を継承していく。この特徴によって、ウフィカの段階的イニシエーションは記述や免状に依らない、参入者自身の心-身的Psycho-somaticな能力によってのみ伝達され得るものとなり、本来的かつ本質的な秘儀共同体のセキュリティが担保される。母から子への手遊び歌のように、ミニマルで生命力溢れる文化遺伝子のヴィークルが電子空間のパロール(語り言葉)として拡散していくのである。


 ウフィカメンバーによる現時点での定例儀式に、毎週水曜日に開催される定例拝火式がある。23:00から30分間、ウフィカメンバーはチームリーダーの語りによる誘導瞑想音源を聴きながら、この時間に世界中で灯される「火」の観想と所定のアストラルイメージワークを行う。この儀式はウフィカメンバー以外にも広くツイッターなどで呼びかけられ、ロウソクなど小さな火を灯すことで気軽に参加できる、電子空間を介したオープンミサといった様相を呈している。心身的技法の実践に集中する女性限定の「火の巫女」たちと別に、ワークを実践しない「崇火会」が組織され、ウフィカの主旨に賛同する広く一般の男女が集い、人的・学際的サポートを行っている。

 

「縄文魔女」のユニバーサルデザイン


 みてきたように、ウフィカの目指す地平は西洋魔女宗への趣味的耽溺や矮小化ではなく、女性的-心身的文化伝承の電子的-時空的拡張と、それに連なる「魔術的記憶想起」或は「転生」の文化装置デザインと実践、現代の個々人がそれを生き切ることが可能なユニバーサルな「魔女」のナラティブの獲得にある。ウフィカの標榜するJomonian WitchcraftとそのMethodologyはあらかじめ空間的制限を超え、文化遺伝子として時間的制限をも超え得るものとして、グローバルな広がりを指向していくものとなるだろう。


 ウフィカについて語り足りない事柄も多く残るが、特に古ユーラシア神話世界やヨーロッパ伝統魔女宗、ガードナー以降20世紀カウンターカルチャーとしてのネオペイガン運動とウフィカが切り結ぶ文脈については、東京リチュアルより2013年年末から順次刊行予定の電子書籍シリーズ「伝統魔女宗叢書」「ルシフェリアン・ウィッチクラフト叢書」の翻訳資料・書き下ろし著作などでより詳細に論じていく予定である。

 

[参考リンク]
縄文魔女術実践グループ ウフィカ:http://uphyca.jp
ウフィカ・twitter:https://twitter.com/UPHYCA1
水曜拝火式・twitterハッシュタグ:#uphycaWFR

 

 

 

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