BVA:飛行船の操縦席ってどんなかな、と想像すると、飛行機の操縦桿ではなく、やっぱり船のなんかくるくる回すあれで、加えて高度、縦軸を制御するなにかと、あとたぶん時間を制御するなにか、みたいな、昔の乗り物にどんどん次元が加わったものなのだろうなと思います。技術が進歩しても、その始まりからは逃れられない。綿毛の種を飛ばす植物は、それを象徴するように感じます。

FCT:バロメッツです。絵を見る人が操縦する気持ちになれるよう、操縦席の窓を後ろに大きく配置しました。神殿や教会の柱をイメージしつつ、神秘的でアール・ヌーヴォーな雰囲気に仕上げました。空は夜明けです。操縦席から旅がはじまる、という感じを意識しました。

BVA:重たいものがぐるぐる回り、全体がジャイロのその回転に制御される。ジャイロというのは魅力的で、牡牛座の「重さ」をジャイロで表現したいなと発想しました。実際、飛行機にもジャイロはついているらしいですが、それは機体の位置、姿勢を検出するためのもので、そもそも「機体を制御するための遠心力発動機」としてのジャイロとは少し違うようです。原理は同じなのですが。ジャイロモノレールという魅力的な乗り物があり、飛行船もこのジャイロを搭載している気がします。スーフィーのダンスに、近いと思います。

FCT:ジャイロスコープのバレリーナです。スカートが後ろに垂れ下がっており、ロココのドレスにも見えます。ここでシュメール神話のイナンナが降りてきたので、天の牡牛とシュメール神の角、「夜の女王のレリーフ」の鳥足、背中に剣を配置しました。私は牡牛座なのですが、星占いコーナーの牡牛座はどこかいかついイラストが多く不満を覚えていたので、あえて配色もやわらかく、重厚かつロマンティックに作りました。

BVA:付け加えることがありません。紙飛行機と消印と切手、全てがつまりスフィンクスでしょう。

FCT:双子のスフィンクスです。謎かけの紙飛行機を飛ばします。何か飛んできたな、と手に取ってしまうと強制謎かけタイムが始まります。双子のスフィンクスは鈴飾りをたくさんつけていて、彼女たちが近づいてくると美しい音がしますが、紙飛行機を手にしたものからするとその音色はたまったもんではありません。全体を切手のかたちにしました。

BVA:蟹の演奏家をみてみたい、と心躍りました。飛行船にはドックに係留するためのフックがあるはずで、それはカニのハサミだろう、というそれだけだったので。キャビンに据えられた自動人形と、地上をがっしり捉えるカニバサミフックが、イメージとして連結するといいと思います。しなくてもいいと思います。なぜチョコミントだと思ったのか、と一瞬考えましたが、カニを食べようとしたら中に詰まっているのは、それはチョコミントだろうな、と思いました。

FCT:カニを演奏する中国風の自動人形です。飛行船が着陸する時、デッキの前の部分がパカっと開いて、この巨大人形が出てきます。彼女はカニを二胡のようにすばらしく奏でますが、カニは地面に生えたチョコミントアイスに夢中です。チョコミントアイスへ向けられたカニの想いが、飛行船を地面に繋ぎ止める力となります。背景は中世写本の教会の描写を参考に、パカっと透明なガラス天井が開くタイプのドックが飛行船を中に収めて閉まっているイメージで描きました。

BVA:客室のラグジュアリー感、ホスピタリティが寝室で最高潮に達していますね。

FCT:ラグジュアリーな客室で、獅子座が密かに宇宙の記憶をたてがみから受信し、眠る乗客に尻尾で与えています。これは乗客にとっては、夢として感知されるでしょう。部屋のあちこちのタッセルたちが獅子像の尻尾に感応しています。アンリ・ルソーの《眠るジプシー女》から、壺とギターが飛んできました。

BVA:昔、新幹線にはビュッフェ車両というのがあり、カレーとかが食べれました。今は飛行機でキャビンアテンダントがご飯をくれます。乗り物でご飯をくれる人たちは、とても崇高で、違う次元から施しを与えてくれる天使のように感じていました。そして彼ら、彼女らも労働者ですから、ねずみもいるでしょう。客室のラグジュアリーは、彼女らとネズミたちのバックヤードの残酷な美学に支えられます。彼ら搭乗労働者たちの気休めは、窓からの眺めだと思います。

FCT:ビュッフェ室です。吊り目の妖怪っぽいメイドとねずみの乙女たちが忙しく働いています。メイドは、照明ランプにぶら下がってグラスを渡すねずみメイドに見向きもせず、手だけでそれを受け取って客に微笑んでいます。メイドたちの忙しさと信頼関係がなせる技です。そんな彼女たちのグラスに流れ星が飛び込みます。今夜のメニューは生ハム、果物、アクアパッツァ、ボルシチ、小籠包と、星と雲で作ったケーキです。

BVA:機能的に、ジャイロの反転したものが、羅針盤だと思います。避けられない天気、方向、運命を指し示すもの。猫もあくびをするでしょう。逆さま感覚も、然りです。天秤座のバランス感覚って、そういう残酷さがあり、魅力です。

FCT:飛行船の揺れるデッキで逆立ちするペルシャの踊り子です。驚異のバランス感覚を誇る彼女の秘密はお腹の羅針盤で、常に北を向く針が逆立ちダンスを支えています。助手の黒猫は天秤のカゴに入って眠りますが、今日は外に出てあくびをしています。個人的に気に入っている一枚です。

BVA:秘密通信。説明無用。まさにそれですが、どんな図像になるのかワクワクです。モールスは金属、電気を使って「打つ」ものですから、たしかにガムランですね。

FCT:花咲く地上（左側）と鳥の舞う空の上（右側）で、ガムランボーイズがガムランモールス通信を行っています。内側の丸に記載されたモールス信号のメッセージは「つねにおどっている」。蠍のハサミと尾をもつガムランレディが、ふたりの通信で踊ります。三人の顔をちょっとワヤンクリ風にしました。背景の模様も少しインドネシア風です。ガムランを聴きながら描きました。

BVA:こないだの「ハードコア犬占い」に「歌いながら燃えて落ちていく人工衛星」が登場しました。射手座というと空に弓を向ける図像がよくありますが、広い空間なら上から自由落下しても、同じく射手座的です。人工衛星、力士といった「重いものが自由落下していく」イメージを感受しました。

FCT:かなり昔から、力士とキューピッドの相似に興味があり、いつか描きたいと思っていました。「ハードコア犬占い」2023年9月の射手座の文章がものすごく好きで、それを下敷きにしています。背景はフランソワ・ブーシェ風のロココな空、キューピッドの力士とハムスター、周りには草花がちりばめられているかと思いきや、それはちゃんこ鍋の具です（水菜、しいたけ、えのき、にんじん）。食べる喜び、自由落下するかと思いきや優雅に飛ぶ力士と太ったハムスターの脂肪が大きなテーマになっています。

BVA:一転して、地上に視点が移動します。突然地上から眺めて、最初にするのは「見上げる」ことでしょう。だから電波塔を求めました。ゴスいのも大歓迎です。

FCT:ゴスハットUFOを被った山羊です。ツノが電波塔になっており、それに合わせて周りの装飾も少し金属的なニュアンスを乗せました。この金属の輝きに誘われて、カラス評議会が集まってきています。私は普段ゴスな服装ばかりしており、ゴスなら描きやすいだろうと軽く考えていましたが、ほかの絵と調和させる色合いにするのに意外と苦労しました(笑)。

BVA:水瓶座は、極めて観念的です。だから旗だったのですが、それがさらに水面越しになることで、ぶっちぎってると思います。ぶっちゃけ、もう何も言えません。 どうぞお願いします。

FCT:飛行船に長時間乗っていると、水が張られた場所を恋しく思うだろうなという気がしたので、キャビンの後ろ側に立てた旗のふもとにプールを作ることにしました。そこに竜宮膏入りのありがたい水を流し込んでくれる乙姫様です。リュウグウノツカイが住むこの水には変なものが映ります。乙姫様の衣はメリュジーヌの尾に、赤い魚はいちごに、旗に描かれた飛行船はお子様ランチに。よくわかりませんが餃子の群れも映り込みました。

BVA:大きな生き物、というイメージが共有されているようです。大きくはないと思うのですが、「ハードコア犬占い」にいつか登場させようと思って結局登場しなかったひとつに、ボルヘスが書いたアバオアクーというのがあり、それがクジラでありカラヴィンカであり、という「幻獣」というイメージで焦点していると思いました。魚座は幻獣。以上。説明無用ですね。空を飛んでいる飛行船と、関係しているのだかしてないのだか、しかし対となって、海の底にも似たフォルムのものがいる、というのがイメージです。

FCT:アバオアクーとくじらのイメージを合わせました。尾の部分に、インドの求道者がのぼる螺旋階段が巻き付いています。2羽のカラヴィンカがその上で楽器を奏で、アバオアクじらが聴いています。彼らとは全然関係ありませんが背景はシチリアのタイルから着想を得ました。全体的に蛾の羽っぽい質感になりました。