惑星詩人協会 ギャザリング 「バンジーマジックワークショップ」 [2018]
願望を様々な方法で図形や呪文として表現し、強く集中することで自身の無意識に命令として送り込む、現代魔術(Contemporary Magick)の代表的技法です。イギリスの画家/オカルティスト、オースティン・オスマン・スペア(1886-1956)が体系化した技法が最も知られています。
その単純明快な理論、誰でもすぐに実行できる手軽さから、20世紀後半英米の現代魔術・魔女ムーブメントに幅広く影響を与えました。シジルマジックは、簡単さ、創意工夫の楽しさ、心理体験の鮮やかさが特徴です。難しいことは考えず、まずはやってみるというDIY精神に彩られた、現代魔術文化のエッセンスが凝縮されていると言えるでしょう。
シジルマジックの手順は、以下の4段階に分類できます。
1.意識化 Intention:魔術の目的、達成すべき状態を、慎重に吟味して明文化あるいは意識化する
2.シジル化 Sigilization:魔術の目的を、無意識が受け入れやすいかたちのシジル(図形)やマントラ(呪文)としてデザインする
3.活性化 Activation:強い集中や突発的な興奮を伴う行動で、シジルを無意識に強烈に焼き付ける
4.忘却 Deletion:シジルに込められた目的、あるいはシジル自体を忘却し、無意識に委ねる
各段階のポイントを、以下にまとめます。
現代魔術は、様々な心理学的モデルを援用し、自分自身にあの手この手の心理学的トリックを仕掛けていきます。古典魔術とは違い、祈りを捧げて願いをきいてもらう神々や天使、悪魔といった存在は、必ずしも必要としません。ある面では「引き寄せの法則」や「マインドフル瞑想」といった近年のスピリチュアル/サイコロジカルなテクニックと基盤を共有していますが、パンクロックやノイズミュージック、サイバーパンクSFと共に興隆した現代魔術(ケイオスマジック)ムーブメントでは、よりドライなDIY精神が強調されます。
願望を叶えるための魔術、という行為自体に、倫理的な後ろめたさや「カルマの法則」が心配な人もいるでしょう。しかし、自分を奮い立たせるためのちょっとしたおまじないや、初詣でささやかな目標を絵馬に託したりしたことは、誰しも経験があるのではないでしょうか。現代魔術は、例えばメレンゲをふんわり泡立たせるためのちょっとしたテクニック、のようなささやかさの中に、 宇宙の不思議を体験する「遊び」として発展してきました。以下に示すポイントに準じて、シジルマジックに託したい願望を意識化してみましょう。
無意識に対して「〜してはならない」という命令は無効です。無意識は「せよ」という形式でしか、命令を理解できません。例えば「失敗しない」という願望をシジル化して無意識に送り込めば、無意識は常に「失敗」に囚われてしまいます。「ならない」「起こらない」ではなく「なる」「起こる」「やる」という形で、自分が望む状況を明文化してみましょう。つまり「転職に失敗しない」は「起業して成功する」と言い換え、「病気が治る」は「健康になる」と、ポジティブに言い換えます。
現代魔術は人生の全てを賭けるものではなく、人生を少し楽しくするサプリメントです。ビタミンサプリを大量に摂取しながら毎日コンビニ弁当を食べ続けても、健康にいい影響は決して現れないでしょう。シジルマジックによって無意識に送り届ける命令も、本筋の努力と覚悟を支えるサプリメントとしてイメージしましょう。「億万長者になる」よりは「毎月貯金する」という命令のほうが、迅速鮮やかな効果が感じられます。また、シジルマジックのテクニックとして「忘却」も重要です。託した後は忘れていられるような、ささやかな事柄のほうが、より効果的です。
先ほど述べた「気楽に」と一見矛盾するように感じられるかも知れませんが、ここに心理的トリックの妙があります。好きな人を振り向かせたいのは、なぜでしょうか。お金持ちになりたいのは、なぜでしょうか。弱さや困難を克服したいのは、なぜでしょうか。本当に、自分が望むものは何でしょうか。そのことを真摯につきつめて、ある答えが思い当たったなら、それをシジルに託しましょう!
実践魔術は、ビギナーズラックが強く働くことが経験的に知られています、一番最初に覚悟を決めてやってみた魔術はなんであれ、鮮やかな結果(それは願望の成就かも知れませんし、とんちのような結果や、何らかの気づきかも知れません。)をもたらします。せっかくの機会ですから、一番いいこと、一番欲しいもの、なにがどうあれ生涯大切にしたいこと、をシジルに託すのが、最も贅沢なことです。
ここでは例として、以下のような願望文を想定します。
もう少しダイレクトに、原始人が洞窟壁画に書くような直截さで表現してみましょう
↓
結局、この魔術に託したいものは、こういうことかも知れません
↓
あるいは
シジル化の方法は様々で、正解はありません。ポイントは、意識的にはもとの願望文は消え去っていて、無意識だけがその意味を理解できる図形や音にする、ということです。つまり、自分にとって「なんとなくいい感じ」になるまで、抽象化するということです。
ひとつの方法として、願望文をアルファベットにして、組み合わせ図形化してみます。
重複する文字を消してみましょう。
↓
残った文字をグラフィカルに組み合わせ、「なんとなくいい感じ」がする単純な図案にします。納得がいくまでなんども繰り返して処理するのがいいでしょう。
残ったアルファベットが全て組み合わされているのがわかりますか?
これでもいいのですが、もっと単純化してみます。
だいぶそれっぽくなってきました。
最終的に、こういう生き物っぽい図案にしてもいいでしょう。
なんだかわかるような、わからないような、という感覚が重要です。
ここでは図形にしてみましたが、同じ要領でマントラ(呪文)をつくることもできます。
サット ブクル- イアオン
コツとしては、声に出した時にリズムのキレがよく、早口でもゆっくりでも、繰り返し唱えやすく、特定の意味を連想させず、それでいて「雰囲気」のあるフレーズにすることです。繰り返し唱えているうちに不明瞭に、どんどん変化しながら、ある響きや色合い、香りが広がっていくような感覚が重要です。また、マントラは静かに唱えたり、大きな声で絶叫したり、ドラムに合わせて踊りながら唱えたりしたくなるものです。様々なシーンを想像して「カッコいい」感じを追求してください。セックスの時に唱えるなら、ムードを高める官能性も必要です。カッコよさやエロティシズムは、それ自体が魔術的エナジーです。いろいろなトーンで声に出してみて、納得いくまで仕上げてください。
組み合わせると、こうなりました。
シジルだけでも、マントラだけでも、両方あわせてつかってもいいでしょう。たとえばこのシジルなら、タトゥーにしてもよさそうです。マントラは、タトゥーのちからを呼び出す魔法の歌として、恋人や家族にプレゼントしてもいいでしょう。事実、シジルマジックとタトゥーは「意志を定め、覚悟を決め、刻む」という点でとてもよく似ています。
来月の小旅行のためのおまじないである「幸多き旅人」は、今や人生のテーマが込められた、魔術のシジルとマントラになりました。元の意味は、もう忘れてしまっても構いません。すでに少し、どうでもいいというか、 おぼろな記憶に変化しているように感じられるでしょう。
つくったシジル/マントラは、なにかしら「極端」な状況や行為によって、無意識に強烈に焼き付ける必要があります。いうなれば「しゃっくり」のような状態を引き起こし、心身的な印象、痕跡、試練として「体験」する、ということです。
活性化の手法は、それはもう様々な方法が様々な人によって考案され、試されてきました。
・目を閉じ息を限界まで止めて、もうダメだ、という瞬間に目を開き、息を吸い込むと同時にシジルを凝視する
・トーストにチョコスプレッドでシジルを書き、食べる。激辛マスタードを使う。あるいは毎朝食べる
・シジルとマントラを意識しながらセックスする
などなど。とにかく、体も心も「しゃっくり」させて、その隙に心の奥底に意味ではなくシジル/マントラを飲み込むのです。
今回は、バンジージャンプで活性化することにします。ジャンパーは、シジルとマントラを強く念じて、高さ42mから渓谷へダイブします。シジル/マントラの作成者本人が活性化するのが基本ですが、シジルマジックの要点は、意味ではなくシジル/マントラを、衝撃をもって無意識に送り込むことです。ユング心理学でいう集合無意識なども鑑みれば、結局のところ、誰が何をどうしようが、その行為、衝撃は魔術的な響きを放つと言えるでしょう。熱力学第二法則の支配化にあるこの宇宙では、なにかを行なってなにも起こらないということは、あり得ないのです。
シジル/マントラを無意識に送り込んだ後は、なるべく元の願望を意識から消し去ります。そのほうが、無意識は余計な解釈に邪魔されず、望むものに向かって一直線に突進しやすくなります。なにせ願望ですから「忘れる」というのはなかなか難しいのですが、「わりとどうでもよくなる」というのはそれほど難しくありません。図案化している段階ですでに、その感覚を少し味わえたかもしれません。
つくったシジルは、活性化した後は焼き捨ててもいいですし、逆に意識に上らなくなるまで毎日身につけてもいいでしょう。マントラなら、瞑想時にすばやく静かに延々と唱えることで「なにがなんだかわからない」音の塊、パルスとなり、変性意識を導く呪文として利用できます。
シジル/マントラ作成と活性化の方法は、実践者の数だけ存在します。原始人になったつもりで、クリエイティブに探求してください。