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Miscellaneous,その他

ストーリー、マザーグース、寂寥感

「新春ボウイのど自慢」at 奥原宿date. (2021)



新春ボウイ歌合戦のためのセットリストを考えるのは、ちょっとした体験だ。歌いたい曲、聴いて貰いたい曲、仕上がっている曲、挑戦したい曲、普通は選ばれないが敢えての曲、そういう選考基準が錯綜し、30分という持ち時間内に落とし込まないといけない。ボウイの作品はアルバムによって時代によってスタイルが全く異なり、ボウイ一人でヴァリウスアーティスト、コンピレーションアルバムみたいな状態であるから、全作品を網羅したセレクションはそれだけで歌合戦的な雰囲気を帯びる。

少なくとも時間軸としてはデビュー時から最後のアルバムまでをオールスルーし、代表的な曲よりは歌いたい曲を優先する、というざっくりした指針を立て、記憶とApple Musicを総ざらいしてボウイ作品を改めて全チェックした。そして幾つか発見があった。

ボウイ作品は、シアトリカルなストーリーテリング色と強いもの(初期)と、ナンセンスやダジャレを畳み掛けるようなマザーグース的なもの(中期)、そして曖昧で掴みどころがないが何らかの問題意識やメッセージ(らしきもの)が滲むもの(後期)、と色分けできる。

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ストーリーテリング的な作品としては最初期の「Wild Eyed Boy From Freecloud」や「Silly Boy Blue」、言わずもがなの「Ziggy Stardust」が挙げられるが、ボウイ本人によって黒歴史扱いされている「Never Let Me Down」も何気にストーリーテリング的な作品だ。「Never Let Me Down」発表時のGlass Spiderツアーは、出世作にしてステージでのメインキャラクターZiggy Stardust、G.オーウェル「1984」のロックオペラ化を目論んだDiamond Dogsに続く、実は極めてシアトリカルなアリーナロックミュージカルの雰囲気が嗅ぎとれる。おれは常々、Glass Spiderこそがボウイ自身が夢見て、探求し、ついにスターとして手にした状況がそれを許した「ロックミュージカル」であるという自説を、演出家の千木良悠子氏に力説し、いつか千木良氏の手でGlass Spiderを上演して欲しい、その時はバロウズ役でカメオ出演を希望する旨を周到に伝えてある。ボウイ自身、このあからさまにキラキラでアイドルでポップでアリーナサイズのロックオペラを黒歴史フォルダに分類したのは、単に照れだと思う。あるいは「これこそ僕がつくりたかったものなんだ」と言える雰囲気では、死ぬまでなかった、みたいな。

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マザーグース的ナンセンス系としては、生涯W.バロウズに傾倒しなんなら「ナンセンス作詞アプリ」まで自作してフル活用したボウイなのでまぁ全時代全作品にそういう傾向はあるのだが、特筆すべきは「Little Wonder」であろう。唐突にドラムンベースで復活(この頃ボウイ作品は発表される度に「復活!!!」と煽られた)しスマッシュヒットとなった「Little Wonder」は、形式からして4行詩で、なんか雰囲気と韻だけの、冗談みたいな曲である。カッコいい。

 

銀河交通、たぶん君でしょ
全部入りタブレット、くしゃみブータン
Intergalactic, seeming to be you
It's all in the tablets, sneezy Bhutan

ちょっと不思議、なんかいいじゃん
君ちょっとあれな、すげーじゃん
Little wonder then, little wonder
You little wonder, little wonder you

"Little Wonder" BVA訳

 

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メッセージ系としては後期の「Slow Burn」なんか911直後のショックについての曲だ、と本人も言及しているが、中期「Fantastic Voyage」なんかもそうだと感じられる。ステージに構築される物語世界から脱し、世界に目が向いていて、いろいろ問題はあるけどまぁポジティブにいこう、みたいな感じで、この感じは最後の作品まで貫かれた。ボウイいいやつ。「Fantastic Voyage」はボウイ全作品のなかでおれが一番好きな曲だ。

さらに、なんか問題意識ていうか寂寥感が充満してるけど掴み所がなく、冗談なのなんなの、みたいな曲がある。後期「Slip Away」という曲を是非聴いてみてもらいたいのだが、なんとも物寂しいノスタルジーと喪失感でよれよれと始まるこの曲は、その実なに言ってるかよくわからない。

 

頭、いつも暖かくしてね
キラキラのフロイドおじさん
世界と、戦争の裂け目を眺めている
君よ、今何処...

Don’t forget to keep your head warm
Twinkle twinkle Uncle Floyd
Watching all the world and war-torn
How I wonder where you are
Oh

"Slip Away" BVA訳

 

Uncle Floydは70年代の英国TVショーで、ボウイはイギーポップとジョンレノンと一緒によく見て笑っていたという。精神分析の開祖フロイトも連想する。訳がわからないが、とにかくなんか寂しい感じは伝わってくる。こういう味わいがボウイ円熟期の醍醐味だ。

◾️
はてさてそういった風にボウイ作品、ボウイの人格形成と円熟の過程を極東の島国から俯瞰しつつ、1/10の30分間を構成しつつある、ほとんど出来た、というのが今だ。実際にどの曲をどう仕上げどう配置したかは、おそらく翌日1/11配信の座談会でつぶさに語られるだろう。今回惜しくも漏れた曲がどさっとあり、これはいつかまた機会があれば演奏してみたい。いやもうそんな機会はないかも知れない。この原稿にも落ちはない。頭はいつも暖かくする。

バンギ・アブドゥル, 2020/12/22

 

ボウイで捉える今年の運勢

牡羊座:怒りを込めて振り返れ "Look Back In Anger"
牡牛座:ヤクのバターの像 太陽に溶けていく "Silly Boy Blue"
双子座:脳じゃない、炎だ "Fame"
蟹座 :言わなくてもわかる 来世でな "Quicksand"
獅子座:異邦人愛してるって信じてる "Loving The Alien"
乙女座:でも信じたい やつらの「今だ!」という狂気 "Cygnet Committee"
天秤座:これで全部 なんにもないよ "I Can't Give Everything Away"
蠍座 :ようこそ現実へ! "Reality"
射手座:アラジンセイン、誰が好き? "Aladdin Sane"
山羊座:愛は愛することじゃない "Soul Love"
水瓶座:一日だけなら、永遠に "Heroes"
魚座 :人生はポップチェリー "Boys Keep Swinging"

太陽星座と月星座を合わせて聴いてみてください。なにかが閃くんじゃないかな。

 

 

From: 新春ボウイのど自慢 at 奥原宿date., Jan.1 2021
イベントページ: https://planetarybards.net/gatherings_32.html

 


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